2015年4月28日火曜日

西日本新聞2013/2/22掲載/[意見識見見解] 福岡-釜山の芸術交流 「行ったり来たり」で新視点

西日本新聞
2013.2.22 11面 [意見識見見解] 福岡-釜山の芸術交流 「行ったり来たり」で新視点(宮本初音・寄稿)


原文 2013/2/13付
  青黒くひろがる水面、その波のあいだから音を立て現れる、ウェットスーツの海女。福岡在住の美術作家、山内光枝(やまうちてるえ)の映像作品の一コマである。山内はここ三年ほど、玄界灘を挟んだ福岡の鐘崎、対馬、済州島、釜山で海女の取材を続けている。この映像作品は福岡と釜山の芸術家ネットワーク「ワタガタ」芸術祭の、昨年の釜山会場で発表されたが、好評であったため再びこの二月に福岡で作品展示とトークをおこなう。
  「ワタガタ」は二〇一〇年に始まった芸術家交流ネットワークで、韓国語で行ったり来たりという意味を表す。アートスペースツアー、芸術家の滞在制作、年一回の芸術祭などを主催し、福岡ではアート企画事務所「アート・ベース88」、釜山では「トタトガ」という芸術家支援機構が事務局となっている。始まりは釜山側からで、双方の芸術家が交流する企画を作れないかという提案であった。韓国では「代案空間」と呼ばれる先駆的な芸術を扱うアートスペースが増えており、海外交流も活発である。対照的に当時の福岡では、若い世代が狭い地域の交流に留まっている傾向があった。この「外圧」により視点が変わることを狙って、まず「釜山アートツアー」をおこなった。
  福岡と釜山、戦後の美術家交流は一九七〇年代から続いている。韓国で日本大衆文化解禁の方針がでる一九九八年よりもずっと前からであり、いまさら何をという声もあった。しかし実際に釜山へ行き、スペースを巡ると、芸術家をとりまく状況は大きく違った。道具がそろった広いスタジオもさることながら、街のなかや高齢者住宅でのワークショップなど市民へ芸術を届ける発表の機会が多い、また商業画廊も華やかで世界に繋がっている。どちらの国も若い芸術家が貧乏と無理解で苦しむのは似ているが社会の中での芸術や芸術家の役割が大きく異なっている。
  釜山での体験を通し、類似と相違、社会状況や歴史感覚、外からの視点を理解した福岡の芸術家たちは、自分が居る時代や場所に敏感になり始めた。芸術家と観光客の違いがここにある。「行ったり来たり」体験は、時をおいて熟成し、新しい視点を示す作品として現れる日が来るだろう。近くでは、来年二〇一四年、福岡アジア美術トリエンナーレと釜山ビエンナーレが同年開催される。そのときに双方を往来するワタガタなプロジェクトを実施したいと、事務局では構想しているところである。

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